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お知らせ

2025.10.16

成果

【プレスリリース】日本人CYP2E1遺伝子多型の網羅的機能解析に成功 ~薬物代謝の個人差解明と個別化医療への応用に期待~

発表のポイント

    • 日本人集団に存在するCYP2E1(注1遺伝子多型(注2に由来する25種のバリアント酵素の包括的機能解析に成功しました。
    • CYP2E1バリアントの中でも、Leu133HisやAsp193Valなど6種のアミノ酸置換型バリアントで酵素活性が著しく低下し、さらにLeu447fsは完全に酵素機能が喪失することを明らかにしました。
    • 本成果は、日本人集団特有の遺伝的背景を反映した薬物代謝活性の個人差を予測するデータであり、臨床での薬物治療の個別最適化に直結します。

 

概要

 医薬品の体内動態は患者ごとに大きく異なります。とりわけ、薬物を酸化・分解するチトクロムP450(CYP)酵素群は、多くの薬の代謝に関与しており、その遺伝的多型は治療効果や副作用に直結します。CYP2E1はアルコールや麻酔薬、発がん物質前駆体などを代謝する酵素であり、肝毒性や薬物の副作用の発症に密接に関与しています。しかし、報告された多くの遺伝子多型について、実際の酵素機能に与える影響は不明のままでした。
 東北大学大学院薬学研究科ゲノム医療薬学分野 平塚真弘教授、大森悠生大学院生の研究グループは、日本人8,380人の全ゲノム解析データから見出された新規CYP2E1遺伝子多型22種を含む計25種のバリアント酵素について、詳細な機能解析を行いました。その結果、一部のバリアントが酵素活性を大きく低下させる一方、逆に活性を増強するバリアントも存在することを明らかにしました。

 本研究成果は、2025年10月3日に国際学術誌 Biochemical Pharmacology にオンライン掲載されました。

 

プレスリリース本文

 

書誌情報

タイトル:Comprehensive functional characterization of rare and known CYP2E1 allelic variants identified in a Japanese population
著者:Yuki Ohmori, Eiji Hishinuma, Yuma Suzuki, Akiko Ueda, Caroline M. Kijogi, Tomoki Nakayoshi, Akifumi Oda, Sakae Saito, Shu Tadaka, Kengo Kinoshita, Yu Sato, Masahiro Hiratsuka*

*責任著者:東北大学大学院薬学研究科ゲノム医療薬学分野 教授・平塚 真弘
掲載誌:Biochemical Pharmacology (Elsevier, 2025年)
DOI: 10.1016/j.bcp.2025.117396

 

用語説明

注1. CYP2E1
肝臓に多く存在する薬物代謝酵素であるシトクロムP450酵素の一種で、医薬品の他にアルコールや揮発性麻酔薬、工業溶剤などの低分子化合物を酸化分解します。また、発がん物質の前駆体を活性化し毒性物質を生じることもあり、薬物代謝のみならず肝障害や発がんリスクにも関与します。CYP2E1は遺伝的多型や飲酒・絶食などの環境要因で活性が大きく変動するため、個人差が顕著な酵素として臨床薬理学や毒性学で重要視されています。

注2. 遺伝子多型
ヒトのDNA配列にみられる自然な個人差を指します。例えば、1塩基が他の人と異なる「一塩基多型(SNP)」などが代表的です。多型は病気のなりやすさや薬の効き方・副作用の出やすさに影響することがあります。薬物代謝酵素の遺伝子に多型があると、薬の体内での分解速度が人によって異なり、治療効果や副作用のリスクが変化します。そのため、個別化医療の実現において重要な研究対象です。