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お知らせ

2025.9.29

成果

扁平上皮がん患者における血漿中リゾホスファチジルコリン濃度が患者の予後や免疫療法の反応性と相関することを特定

東北大学病院腫瘍内科の岩崎 智行大学院生、ならびに当センターの城田 英和准教授、川上 尚人教授(臨床ゲノム診断グループ)、および菱沼 英史助教(クリニカルフェノームグループ)らの研究グループは、食道がんまたは頭頸部扁平上皮がん(SCC)患者の血漿メタボローム解析を行い、リゾホスファチジルコリン(LPC)が患者の予後や免疫チェックポイント阻害剤療法への反応と強く相関するバイオマーカーであることを特定しました。

 

がん細胞は、代謝リプログラミングにより自らの代謝経路を変化させ、制御不能な細胞増殖を可能にします。そして、宿主はこれらの異常に対して、免疫応答など様々な方法で反応し、正常組織の代謝をも著しく変化させます。そのため、がんは腫瘍部位のみを侵す局所疾患ではなく、代謝異常を引き起こす全身疾患と考えられています。従って、これらの代謝異常を標的とすることは、個別化医療への有望なアプローチであり、新たな治療戦略につながる可能性があります。近年、次世代シークエンサーによるがんの分子診断に基づく個別化医療が確立され、現在では日常診療に広く導入されています。しかし、SCCでは、ゲノム変化に基づく分子診断の有用性が限られており、進行頭頸部がんや食道がんの予後は不良であるため、代替の診断アプローチと新規治療標的の開発が急務であると言えます。

そこで本研究では、149人の食道がんまたは頭頸部SCC患者の血漿サンプルの包括的なメタボローム解析を行い、代謝プロファイリングと臨床データとの相関を解析しました。その結果、LPCが患者の予後と強く相関し、血漿LPC濃度の有意な低下は、全生存率の低下と関連しており、免疫チェックポイント阻害剤療法への治療反応性と有意な関連を示しました。さらに、プロテオーム解析およびサイトカイン解析により、血漿LPC濃度の低下は、炎症性タンパク質やサイトカインであるインターロイキン-6、腫瘍壊死因子-α、血液凝固関連タンパク質の高値を特徴とする全身性慢性炎症を反映していることが明らかになりました。

本研究の成果は、SCC患者の予後予測および免疫療法の有効性評価において、血漿LPC濃度が信頼性の高いバイオマーカーとして利用できる可能性を示唆しています。がん患者の代謝経路の変化は、予後を予測するためのバイオマーカーであるだけでなく、全身の代謝経路や臨床状態、さらには創薬における標的分子を解明する可能性も秘めており、今後患者一人ひとりの病態に合わせた最適な個別化医療を提供する未来型医療への貢献が期待されます。また、この研究をもとに新たな治療のバイオマーカーとして特許を取得しております。この代謝経路をターゲットにした新規薬剤開発も考えられ、新たな臨床開発を加速させる予定です。

 

本論文は、2025年8月4日にInternational Journal of Molecular Sciences誌の電子版に掲載されました。

 

書誌情報

タイトル:Plasma Lysophosphatidylcholine Levels Correlate with Prognosis and Immunotherapy Response in Squamous Cell Carcinoma

著者名:Tomoyuki Iwasaki, Hidekazu Shirota*, Eiji Hishinuma, Shinpei Kawaoka, Naomi Matsukawa, Yuki Kasahara, Kota Ouchi, Hiroo Imai, Ken Saijo, Keigo Komine, Masanobu Takahashi, Chikashi Ishioka, Seizo Koshiba, Hisato Kawakami

*責任著者:東北大学病院腫瘍内科 准教授 城田 英和

掲載誌:International Journal of Molecular Sciences

掲載日: August 4, 2025

DOI: 10.3390/ijms26157528