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2025.9.26

成果

クライオ電子顕微鏡による微生物由来アミノ酸トランスポーターの構造解析に関する論文が掲載

クライオ電子顕微鏡を用いて、乳酸菌由来アミノ酸トランスポーターの構造を解明した論文が国際科学誌Communications Biology誌に掲載されました。細胞の中では、必要な物質を取り込み、不要な物質を外に出すことがとても大切です。この仕組みをより深く理解するために、最新のクライオ電子顕微鏡を用いて、乳酸菌に由来するアミノ酸トランスポーターというタンパク質の立体構造を明らかにしました。

乳酸菌 Tetragenococcus halophilus の持つアスパラギン酸:アラニン交換輸送体(AspT)というタンパク質は、アミノ酸のひとつであるアスパラギン酸を細胞の中に取り込み、別のアミノ酸であるアラニンを外に出す「交換輸送」を行います。これまで、AspTについては多くの生化学的な研究が行われてきましたが、その立体的な分子構造は明らかになっていませんでした。

今回、INGEMの七谷助教(所属は論文執筆時点)を中心とする研究グループは、クライオ電子顕微鏡を用いてAspTの分子構造を調べました。その結果、AspTが二つの異なる形をとることを発見しました。ひとつは何も結合していないときの外向きの形、もうひとつはアスパラギン酸が結合したときに内向きに少し開いた中間の形です。AspTは二つの分子がペアになって働きます。アスパラギン酸が結合すると、外側に位置する部分が細胞の内側に動き、外側からの通路をふさぐと同時に、内側へ通じる新しい通路が開かれます。この一連の動きは、まるで「エレベーターのように」分子を運ぶ仕組みであることが分かりました。

この研究成果は、物質を交換輸送する輸送タンパク質の仕組みを理解するための大きな手がかりとなります。さらに、将来的にはバイオテクノロジーの応用にも役立つと期待されます。

書誌情報

タイトル:Elucidation of the Structure and Molecular Mechanisms of the Aspartate Antiporter
著者名:Kei Nanatani, Lan Guan, Ryo Kanno, Takeshi Kawabata, Satoshi Watanabe, Satoshi Katsube, Parameswaran Hariharan, Masafumi Hidaka, Takashi Yamanaka, Keita Toda, Takashi Fujiki, Kota Kunii, Akari Miyamoto, Fumika Chiba, Satoshi Ogasawara, Takeshi Murata, Kenji Inaba, Kaoru Mitsuoka, Keietsu Abe, Masayuki Yamamoto & Seizo Koshiba
掲載誌:Communications Biology
掲載日:2025年9月25日
DOI:https://doi.org/10.1038/s42003-025-08676-7