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お知らせ

2024.3.7

成果

日本人における全血トランスクリプトーム解析による年齢・性別ごとの特異的遺伝子発現プロファイリングに関する論文が掲載

当センターのBaird, Liam助教、勝岡 史城教授(クリニカルシークエンスグループ)、熊田 和貴教授(クリニカルバイオバンクグループ)、木下 賢吾教授(副センター長)、山本 雅之教授(センター長特別顧問)らが執筆した、日本人における全血トランスクリプトーム解析による年齢・性別ごとの特異的遺伝子発現プロファイリングに関する論文が、The Journal of Biochemistry誌に掲載されました。

 

ヒト検体を用いたトランスクリプトーム注1法による遺伝子発現解析の有用性が広く認識されるようになってきています。なかでも血液検体は収集しやすく、また、得られる情報が多いために期待されているアプローチです。

本研究では、東北メディカル・メガバンク計画に参加している一般成人住民576名の血液検体を用いたトランスクリプトーム解析注2を実施しました。ところで、これまでの血液検体全体を用いたトランスクリプトーム解析では、発現量の多いグロビン遺伝子を除いて解析することが常法となっていました。グロビン遺伝子は全体に占める割合が圧倒的に多いため、他の遺伝子の割合が少なくなってしまうからです。しかし、本解析ではグロビン遺伝子が解析できることを利点として捉え、敢えてグロビン遺伝子に関する発現量の情報が十分に取得できる深度でシークエンス解析を行いました。

その結果、成人でも胎児型グロビン遺伝子(HBG1とHBG2)を発現している遺伝性高胎児血色素症の症例を複数特定することができました。また、20-30代と60-70代の男女に絞って参加者検体の選抜をしたので、年齢と性別による遺伝子発現の違いを層別化することができました。さらに、好中球-リンパ球比によって示される免疫応答状態が、血液における個々の遺伝子発現プロファイルの多様性に影響することも明らかにしました。

本解析から得られた、年齢や性別により層別化された一般住民の全血トランスクリプトームデータは、今後普及することが想定される各種疾患患者の血液検体トランスクリプトームデータに対する良質な対照データとなります。本研究は今後の日本人の全血トランスクリプトーム解析の発展に資する重要なデータとなるものと期待されます。

 

注1 トランスクリプトーム:細胞内の全転写産物(RNA)のこと

注2 トランスクリプトーム解析:細胞内で発現するRNAの塩基配列と存在量を包括的に研究する技術。特に、近年は、RNAシークエンシング(RNA-seq)法を用いた解析が広く行われている。この手法では、次世代シークエンサーを活用して細胞から抽出したRNAの塩基配列を大規模に決定し、特定の細胞や生体試料内の遺伝子発現プロファイルを定量的に把握できる。RNA-seq法は、遺伝子発現量の変動、新規遺伝子や非コーディングRNAの同定、スプライシングバリアントの分析といった、生物学的に多様な現象を解明するための貴重な情報を提供する。得られた情報を応用することで、疾患メカニズムの解明、新しい治療標的の同定、個別化医療への展開など、生命科学や医学研究の多くの分野で新たな発見をもたらすことが期待されている。本研究では、全血試料を対象としてRNAシークエンシング法によるトランスクリプトーム解析を実施し、日本人集団における性別や加齢による遺伝子発現変動を明らかにした。

 

書誌情報

タイトル:Whole blood transcriptome analysis for age- and gender-specific gene expression profiling in Japanese individuals
著者:Aoki Y, Taguchi K, Anzawa H, Kawashima J, Ishida N, Otsuki A, Hasegawa A, Baird L, Suzuki T, Motoike IN, Ohneda K, Kumada K, Katsuoka F, Kinoshita K, Yamamoto M.
掲載誌:The Journal of Biochemistry
掲載日:2024年1月24日
DOI:10.1093/jb/mvae008

 

関連リンク

東北メディカル・メガバンク機構