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お知らせ

2021.6.2

成果

酸化ストレス応答に関与するKeap1-Nrf2 システムにおけるNrf2活性化の分子基盤に関する論文が Communications Biology 誌に掲載されました

大学院生の堀江悠太さん・鈴木隆史講師 (東北大学医学系研究科医化学分野) と当センター生体高分子構造解析グループ 井上仁助教 (東北メディカル・メガバンク機構 兼務)らが執筆した、Keap1-Nrf2システムにおけるNrf2活性化の分子基盤とされるヒンジ・ラッチシステム※の解明に関する論文が Communications Biology 誌に掲載されました。

Keap1-Nrf2 システムは哺乳類における様々なストレスに対する細胞保護機構の中心であり、病気の予防・治療のための薬剤ターゲットとして注目されています。Nrf2 活性化の分子機構として、Nrf2上に存在する2つのKeap1結合モチーフのうち、一方はラッチとしてKeap1から解離し、もう一方はヒンジとしてKeap1に結合したままである、というヒンジ・ラッチモデルが提唱されています。しかしこのモデルを立証するためには、Keap1-Nrf2複合体におけるNrf2上の2つのモチーフの結合状態を同時に調べなければならず、これまでは技術的に困難でした。

この問題を解決するため本研究では、核磁気共鳴 (NMR) 法によりKeap1とNrf2の相互作用とそれに伴う構造変化を解析しました。その結果、2つのモチーフの結合状態を同時に観測することに成功しました。またKeap1とNrf2の相互作用がタンパク質間相互作用 (PPI)を阻害する低分子の添加により変化すること、そしてラッチに相当するNrf2の結合モチーフがKeap1から解離することが観測されました。またこの現象は細胞内でオートファジーなどの生体防御に関わるp62タンパク質によるNrf2活性化の過程でも生じることが明らかになり、ヒンジ・ラッチモデルは細胞内でも機能することが強く示唆されました。

これらの結果から、創薬の分野で注目を集める非親電子性のNrf2活性化剤やp62は、Keap1のユニークなヒンジ・ラッチシステムに基づいてNrf2を活性化することが明らかになりました。本研究成果は、Keap1-Nrf2システムにおける次世代のNrf2活性化剤の開発に対し重要な知見を与えるものになると期待されます。

※ヒンジ ラッチ:ヒンジは蝶番(ちょうつがい)のこと。ラッチは掛け金のこと。本文では蝶番状のものと掛け金の組み合わせで複数のものをつなぎとめることのたとえを用いている。

 

書誌情報

タイトル:Molecular basis for the disruption of Keap1–Nrf2 interaction via Hinge & Latch mechanism
著者名:Yuta Horie, Takafumi Suzuki, Jin Inoue, Tatsuro Iso, Geoffrey Wells, Terry W. Moore, Tsunehiro Mizushima, Albena T. Dinkova-Kostova, Takuma Kasai, Takashi Kamei, Seizo Koshiba, Masayuki Yamamoto
掲載誌:Communications Biology
DOI:10.1038/s42003-021-02100-6

 

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